相続人Aさん(50代)から相談がありました。Aさんは80代の母親と母親名義のマンションで同居しています。

5年前に父親が亡くなったとき、父親の財産は母親が相続しました。父親は体調を崩したときに遺言書を作成していて、「財産はすべて配偶者に相続させる」という内容でした。2人の兄も、Aさんもそれについての異論はありませんでした。

よって母親は自宅マンションと駐車場と貸店舗と預金を保有しています。財産評価は合わせて5,000万円程で、相続税の申告は必要なかったと言います。

固定資産税がかかるだけの空き家、貸店舗は父親が別荘感覚で購入したもので、緑が豊かな山間にあります。1階が貸店舗、2階、3階が住居で、1、2階を貸し、3階は別荘として使っていました。

父親が元気な頃は家族で出かけたりしていましたが、父親が60代になって体調が思わしくなくなり、行くことも叶わなくなったのでした。

1階はカフェで、2階も住まいとして借りてくれていましたので、1、2階の家賃が入っていましたが、賃借人が高齢となり、昨年、お店を辞めて、転居するということで退去してしまい、現在は空き家になっています。それなのに固定資産税が5万5,000円かかっているといいます。

母親は3年前に、自宅で転倒して大腿骨を骨折、入院、手術をしました。その後、リハビリに励み、だいぶ回復はしたものの、要介護3となりました。現在は自宅マンションで生活できていますが、以前のように出歩くことが難しくなり、貸店舗も退去したまま、次のテナントや入居者の募集ができていないといいます。

こうした母親の様子では、賃貸事業はAさんがサポートしないと継続が難しいため、これからは自分が主となり、貸店舗の募集をしようと考えました。それなら自分の収入としていいかと税理士に相談したところ、母親の不動産なので母親が確定申告をしないといけないと言われたのです。

そこで、「自分で申告をすることはできないのかと国税庁に問い合わせてみたそうです。

国税庁の税務相談室
国税庁の税務相談室は、税理士と同じ回答でした。

1.不動産所得は「所有者に帰属する」のが原則
 税務上、賃料収入は原則として不動産の登記名義人=所有者に帰属します。

2.名義借りでの事業は認められない
 名義は親のままで、子が賃貸管理や募集、契約などを行っても、それだけでは「子の事業」とは見なされません。
 → 所有者が親である以上、収入も親に帰属します。

3.親が確定申告すべき
 賃料収入や必要経費(修繕費・管理費など)を計上し、親が不動産所得として確定申告する必要があります。

しかし、実務的には、子どもが親の不動産を無償で借りている使用貸借は多くあります。親の土地に子どもが自宅を建てて住んでいることは一般的ですし、親名義の不動産で子どもが賃貸事業をしていることもよくあります。

自分の事業で確定申告
親名義の住宅を子どもが無償で借りて賃貸事業を行った場合、その不動産の所有者である親に賃料収入が帰属すると考えられるため、親がその賃料収入を申告し、所得税を納める必要があります。そのため、子どもが賃貸事業をしている実態を作れば、子どもが家賃を受け取って確定申告をすることで認められます。

1.【建物の贈与で収入帰属が明確になる】

不動産収入は登記名義人に帰属します。建物だけでも名義が子どもになれば、建物の使用に伴う賃料収入は子どもに帰属し、子どもの事業所得/不動産所得として確定申告します。2.【土地を親が所有し、無償で貸す(使用貸借)の扱い】

贈与税は? 相続時精算課税制度が使える
エリカさんの母親が所有する貸店舗は木造3階建てで、築20年。土地50坪の固定資産税評価は150万円、建物の固定資産税評価は400万円です。

建物は固定資産税評価を市場価格として、400万円の価値として売買、贈与されますので、親子間であっても400万円で贈与を受けるとすれば否認されることはありません。

贈与税の基礎控除は110万円です。それを超える290万円に関して贈与税が課税されます。親からの贈与の場合、課税される額が400万円までの贈与税は税率15%-10万円で33.5万円の贈与税となります。さらに親子であれば相続時精算課税制度が使えます。

エリカさんは母親が賃貸事業を継続することは実務的に負担があり、自分が継続しようと考えていますので、建物の贈与を受けることをお勧めしました。登記費用や取得税はかかりますが、そうした手続きをすることで税務署から指摘を受けることなく、自分の収入にすることができます。贈与税の負担もありません。